手付金は還ってこない
手付金は本来、契約を担保するためのもので、契約を解約したい場合に、金銭的な負担を持つことで借りる側にも貸す側にも解除する権利を与えるためのものです。この手付金は、不動産売買の場合は、売買代金の一部に、賃貸物件の場合は、敷金・礼金などの費用に充当されます。
その一方で、契約前に、物件をキープするという意味で手付金の支払いをする場合があります。ですが実際に、契約前に支払うものは手付金ではなく、「預かり金」です。手付金とは本来、契約後に支払うものですから、予約の意味で手付金を支払うことはありません。これは賃貸契約であれ、売買契約であれ同じです。このため、賃貸契約の申し込みを行い、預かり金を支払った場合は、大家さんが契約に合意して契約成立となった時点で手付金となることがほとんどです。こうして手付金となった場合、大家さん側の都合で契約を破棄する場合は全額買主に返済されます。ちなみに売買契約の場合は手付金の倍額を、購入者に支払うことで売買契約を解除することができます。ですが、借りる側の都合でキャンセルする場合は、大家さんへ支払う違約金となります。
最近は契約前に金銭の受け渡しを行った場合には、名目が予約金であれ、手付金であれ、契約前に支払ったお金は返してもらえる事が常識となりました。このため、契約の意思があって申し込んだにも関わらず、一方的なキャンセルを行い、返金を求める場合もあります。もちろん、このように借りる側にだけ有利な仕組みはありません。
借りる側の都合によるキャンセルも大家さん側に迷惑をかける行為です。通常賃貸物件は、自分の意思で部屋を探してもらって、自分の意思で契約を行うものです。このため、賃貸契約はクーリングオフによる契約解除はできないことがほとんどです。クーリングオフができませんから、借りる側の都合で契約をキャンセルする場合には、借りる側が迷惑料を支払うことは当然のことなのです。
契約前に申込みと同時に申込金を支払った場合は、入居審査が通らなかった場合には、当然全額返済されますし、契約成立前であれば借りる側からのキャンセルでも全額申込金は返済されます。これは手付金としての性格を持つまでには至らなかったお金ですから、手付金が返還されたわけではありません。となると、どの時点で契約が成立したのかが問題になります。賃貸契約は、通常口頭でも成立しますが、後々トラブルとならないように契約書を交わすのが一般的です。こうして契約書を交わしておけば、その契約書に記されていない文面はお互いに納得しての契約ということになり、言った、言わないといったトラブルを避ける事ができます。賃貸契約は、重要事項の説明を行ったうえで入居申し込みを行い、大家さんが貸しますと承諾した時点で契約が成立しますから、署名印鑑の前に契約は成立していることになります。こうした賃貸物件のキャンセルについてのトラブルが多いため、東京都内では、現在は賃貸物件で契約前の金銭の受け渡しは禁止となっています。そもそも、物件を仮押さえするという行為そのものが間違っているということです。複数の物件を仮予約して、他の人が借りることのできない状態にしてあっさりキャンセルされた上に一円にもならないというのであれば、大家さん側に一方的に不利です。このため、借りる側からの都合でキャンセルする場合、手付金は帰ってこないのです。
こうしたトラブルに対処するには、そもそも「手付金を払えば物件をキープしますよ」、という不動産屋さんに、事前にお金を支払わないことです。契約の意思なく物件を予約することはできませんから、複数物件に手付金を求める不動産屋さんは、利用しない方が賢明です。